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車いすからトイレへの移乗を目標とする時の段階的な訓練方法

2019/09/17
 
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たぐ
webライター・ブロガー。うつ病当事者。うつ病になった人に向け、会社で働く以外のフリーランスとしての働き方・生き方を情報発信。うつ病と付き合いながら、〝自分らしい〟人生の歩み方を模索中。
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車いすからトイレへの移乗は、入院している患者さんが、必ずぶつかると言っていいほどの壁です。

 

 

 

病気になって、介護が必要になった状態から、一早くトイレを自立したいというのは、患者さんの立場になって考えたら当然のことです。トイレの度に、看護師や介護士を呼ぶのは気を遣いますし、下の世話は、自分でやりものです。

 

 

 

僕は、作業療法士として、特に片麻痺患者さんのトイレ動作に関して、こだわって訓練をしてきました。なぜなら、トイレは1日に何度も行うADLで、入院患者さんの貴重な活動機会ですし、トイレを自立した患者さんから、自己効力感が高まっている印象を受けることが多かったからです。

 

 

 

トイレに自立して行くためには、車いすからトイレへの移乗動作が必要になります。車いすからトイレへの移乗動作は、段階的に訓練を進めていくと、徐々に、患者さんが自分でできる動作の範囲を増やしていきやすいです。作業療法の介入で、いきなり、移乗動作の全てを自立させようと思っても、上手くいかないことが多いですよね?

 

 

 

片麻痺患者さんの頭の中には、病気をする前に行っていたトイレ動作の方法が記憶として残っているんです。だから、患者さんが、病気になる前の方法で強引に移乗動作を行おうとしても、片麻痺によって、病前とは違う体になっていることから、移乗動作が上手くいきません。

 

 

 

そこで、車いすからトイレへの移乗動作訓練では、新たに安全で、効率的な方法で、トイレへの移乗動作方法について、患者さんが学習していく必要があるんです。この記事では、車いすからトイレへ移乗する際に、段階的な動作の学習の進め方について、説明します。


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車いすからトイレへ移乗訓練の段階は4つ

車いすからトイレへ移乗訓練では、4つの段階があると考えられます。作業療法士には、4つの段階のどこができているか、どこが困難になっているかを評価して、車いすからトイレへの移乗動作の目標を立てて、患者さんと共有することが重要ですよ。

 

車いすからトイレへ移乗する時の4つの段階
① 車いすのバックサポートから、体幹を起こせるか
② 臀部を挙げて、足底に体重をかける
③ 健側下肢の力を適度に抜いて、臀部を回転する
④ 便座に座る、下衣を上げ下げする

 

 

車いすからトイレへの移乗動作訓練を行う前に、※1 体の部位の名称を整理、※2車いすの部位の名称を整理しておきましょう。これからする説明の内容の中で、頻繁に出てくる名称になるので、「どこの部分を言っているのか?」、説明でわからなくなったら、下の絵を見返して名称を確認してみてください。

 

※体の部位の名称を整理
身体の各部の名前.jpg
※車いすの部分の名称を整理
車いすの各部の名前.jpg

 

以上の名称を知っておくと、これから行う説明が理解できるだけでなく、看護師・介護士・理学療法士・言語聴覚士・医師などの関連職種と、情報を共有しやすくなるので、覚えておくことをおすすめします。

 

① 車いすのバックサポートから、体幹を起こせるか

車いすからトイレへ移乗する際には、まず車いすのバックサポートから、体幹を起こす必要があります。患者さんが、体幹を起こす時のポイントは、健側の上肢・下肢に頼らないことです

 

 

 

車いすのバックサポートから、体幹を起こす動作は、言い換えると、立ち上がるための準備段階です。この立ち上がるための準備段階で、健側の上肢・下肢に頼ってしまうと、立ち上がりや立ち上がった時に、麻痺側の下肢に体重がかかりにくくなり、立位やズボンの上げ下げが行いにくい原因のひとつになります。

 

車いすのバックサポートから、体幹を起こす時のワンポイント

患者さんが車いすのバッグサポートから、体幹を起こす時に、健側の上肢・下肢に注目してみましょう。患者さんは、アームサポートを引っ張ったり、健側の下肢を床に強く押しつけながら、体幹を起こそうとしていませんか?

 

作業療法士は、患者さんの隣に立ち、体幹の力だけで、車いすのバックサポートから、体幹を離すように指示してみてください。

 

もしも、作業療法士が指示しただけでは、バックサポートから体幹を起こせない場合は、作業療法士が、患者さんの両上肢(腋窩(脇の下)や肘など)を支えながら、バックサポートから体幹を起こす動きを介助してみてください。これは、車いすのバックサポートから、体幹を起こす動作を学習する訓練です。

 

ここで説明している「健側上肢・下肢に頼らない」という意味は、移乗動作を獲得するために、患者さんが、健側上肢・下肢を全く使ってはいけないという意味ではありません。体幹の力だけでは、車いすのバックサポートから、体幹を起こせない場合も多いです。ただ、できる限り、体幹の力を使えると、その後の立ち上がり、立位、ズボンの上げ下げが、より安定しやすくなるという意味です。

 

患者さんが、車いすのバックサポートから、体幹を起こす段階がイメージしやすいように、以下に図を作ってみました。

 

体幹を車いすのバックサポートから起こす.jpg

 

片麻痺患者さんは、片側半身の麻痺(動かしづらさ、感じづらさ)によって、健側の上肢・下肢の使い方も、病気になる前とは違ってきます。そのため、「こうやって動くといいかもね?」と言ったように、作業療法士の介助や訓練による動作の再学習が必要になるのです。

 

車いすのバッグサポートから、体幹を起こす動作は、体幹の筋力が低下した片麻痺患者さん、特に高齢の方では、体幹の筋力が落ちているため、作業療法士が思っている以上に、この動作は難しいんです。トイレ移乗の自立のために、理学療法での筋力強化に加えて、動作の再学習が、作業療法で必要です。

 

② 臀部を挙げて、足底に体重をかける

車いすのバックサポートから、体幹を起こした後は、車いすのシートから臀部を挙げて、足底に体重をかける段階に入ります。臀部を挙げて、足底に体重をかけるポイントは、患者さんが、体を支えている面(支持基底面)の変化に、対応していかなければならないことです。

 

 

 

座位と臀部を上げた立ち上がり後で、患者さんが、体を支えている面が、どのように変化しているか。以下の図のようなイメージになります。

 

立ち上がりにおける支持基底面の変化.jpg

 

座位の時には、臀部と足底で体重を支えられていたけれども、立ち上がる時には、足底だけで体重を支えれなければなりません。だから、立ち上がる時には、患者さんからすると、体が倒れてしまうのではないか?と恐怖心が高まるのです。立ち上がることを恐がって、逆に後ろに突っ張ってしまう原因のひとつが、この体を支える面の変化に、対応できないことなんです。

 

 

逆に言うと、この段階で、上手く足底だけに体重を乗せられるようになると、立ち上がりもしやすいですし、ズボンを上げ下げする時に、患者さん自身の足で、しっかりと立位をとりやすくなりますよ。

 

臀部を挙げて、足底に体重をかける時のワンポイント

臀部を挙げて、足底に体重をかける時のポイントは、患者さんが立ち上がろうとする時に、臀部(以下、骨盤)が前傾していることです。

※自分の腰に両手を回してみてください(「背の順が一番前の小学生のポーズ」)。そのポーズをとった時に、自分の親指から人差し指にあたる硬い骨が骨盤(正確には、腸骨(ちょうこつ)という骨盤を構成する骨)です。

 

骨盤を前傾して、立ち上がる.jpg

 

骨盤を前傾できるメリットは、立ち上がろうとする時に、足底に体重を乗せやすくなることです。足底に体重を乗せやすくなると、立ち上がる時に、下肢に力が入り、立ち上がりや立位が行いやすくなります。

 

訓練時に、作業療法士が骨盤の前傾を介助する時には、患者さんの両脇の下から、あなたの両手を入れて、患者さんの骨盤に触れて、患者さんが立ち上がろうとするタイミングに合わせて、あなたの手で骨盤を前傾する方向へ傾けてみると良いです。

※高齢の患者さんでは、骨盤が前傾せずに、体幹の前傾で立ち上がろうとする場合が多いです。脊柱(背骨)の変形や脊柱が硬くなっていると、骨盤を前傾することが困難だからです。こういった場合には、骨盤の前傾にこだわりすぎず、患者さんが立ち上がる時に手すりを持ってもらって、上肢の引っぱる力で、骨盤の前傾を代償してみましょう。

 

③ 健側下肢の力を適度に抜いて、臀部を回転する

臀部を挙げて、足底に体重をかけて立ち上がった後は、立位から臀部を回転する段階です。立位から臀部を回転する段階のポイントは、健側下肢の力が、適度に抜けていることです。立てたのはいいけれど、健側下肢がつっかえ棒のように固定されて、便座の方に回転できない状態の患者さんが多いですよね?

 

 

僕の経験上では、臀部を挙げて、立ち上がりが上手くいっている患者さんは、比較的スムースに立位に移行できて、臀部を回転できると考えています。理由は、足底に体重を上手くのせることができた健側下肢は、適度に力が抜けている分、臀部の回転に合わせて、下肢の向きも変えやすいからです。

 

 

 

健側下肢の力が、適度に抜けていると、下の図のようなイメージで、健側下肢を軸足にして、臀部を回転しやすいです。

 

トイレへの移乗 臀部回転.jpg

 

逆に、自分で下肢を思いっきり突っ張ってみて、かかとも浮かさずに、突っ張った下肢で回転しようとしてみてください。かなりの力が必要になることがわかりますよ。それでも、バランスをとって、方向転換し、立位を保ってるのは、あなたが健常者だからです。

 

 

 

臀部を回転する時は、つま先を中心に、かかとの向きを便座へと向けると良いでうす。この時、僕は、患者さんの下肢が微動だにでも動かせない場合は、患者さんに一度車いすに座ってもらって、もう一度、立ち上がりから行うようしています。健側の上肢・下肢の力で、強引に立ち上がらないように仕切り直してからの方が、立ちあがり動作が上手くいきやすいですよ。

 

 

 

将来的に、患者さんはトイレの自立を目指していく訳ですから、健側の上肢・下肢の力が適度に抜けないと、この後の動作であるズボンの上げ下げが、とても行いにくくなります。だから、作業療法で行う時には、多少なりとも自分で回転ができるくらいでないと、もう一度、立ち上がりからやり直した方が良いと思うんです。

 

※立ち上がりをやり直す時には、縦(またはL字型)手すりの上の方を持ってもらうのも、ひとつのアイディアです。手すりの上側を持つと、上半身が伸びるとともに、骨盤を前傾しやすいからです。ぜひ、試してみてください。

 

便座に座る、下衣を上げ下げする

車いすからトイレに移乗する訓練の最後の段階は、便座に座る、下衣を上げ下げする段階です。便座に座ったり、下衣を上げ下げする段階のポイントは、健側の下肢を曲げたり、伸ばしたりできることです。

 

 

 

患者さんが、便座に座る時には、健側の下肢の力を少しづつ抜き、体を前方にかがめて座るようにします。先輩や看護師・介護士がよく言っている「おじぎをしながら」という指示で良いです。方向転換する回転の勢いに任せて座ってしまうと、便座の後ろの壁に頭や背中をぶつけて、ケガをする原因になります。

 

 

 

また、トイレに関わらず、勢いよく後ろに座る癖がつくと、車いすやいす、ベッドに座る時にも同じ座り方をするので、転倒や転落の危険があったり、ひどいと脊柱や骨盤を骨折したりします。患者さんが便座に座る時には、上体と膝をゆっくりと曲げて座れているかに注意してください。

 

 

 

下衣を上げ下げする段階については、解決!片麻痺のトイレ動作訓練 手すりを使ったズボンの上げ下げという記事で、手すりを使って、健側や麻痺側に寄りかかりながら行う方法について、詳細に書いています。そちらを参照してみてください。

 

まとめ

車いすからトイレへの移乗動作について、段階的な訓練の進め方について説明しました。訓練の段階は4つあります。

 

 

① 車いすのバックサポートから、体幹を起こせるか

② 臀部を挙げて、足底に体重をかける

③ 健側下肢の力を適度に抜いて、臀部を回転する

④ 便座に座る、下衣を上げ下げする

 

片麻痺患者さんでは、昔のトイレ動作方法を覚えていても、体の機能は全く違っていますから、今の体にあった動作の学習が、作業療法で必要です。ただし、いきなり移乗動作の自立を図ろうとしても、患者さんは混乱しますし、段階的な訓練の進め方が必要です。そのため、この記事では、段階的な移乗動作訓練の方法について説明しました。

 

 

 

この記事が、患者さんのトイレでの排泄獲得に向けて、少しでも参考になればと幸いです。

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