うつ病者でも、寝ながらできる運動を作業療法士が3つご紹介
「うつ病には、運動が効果的です。」という言葉を聞くと、「そんなことは知っているよ!?」と思いません?
テレビをつければ、生活習慣のためにも運動をしましょう!と言っていますし、精神科に行けば、「散歩をして、軽い運動をしましょう!」などと言われたりして…。頭の中では、運動が重要なことはわかっているんです。
実際、運動をすると…、
① セロトニン(幸せホルモン)を出す神経が働きやすくなる ② ストレスホルモンを調節するシステムが働きやすくなる など、抗うつ、抗不安作用があることが、うつ病の研究でも言われています。
北ら(2010) 「うつ・不安にかかわる脳内神経活動と運動による抗うつ・抗不安効果」37(2),pp.133ー140,スポーツ心理学研究
でも、うつ病者にとって問題なのは、そもそも、ベッドから起き上がることが億劫でしょうがない ということなんですよね。
朝、ベッドから起きられさえすれば、食事をしたり、家事をすることができたりして、生活リズムが整いやすくなるでしょうし、1度、行動し始めさえすれば、意欲や気力が湧きやすいもんです。行動した後に、意欲や気力が湧いてきたら、外に出たくなって、散歩のひとつもしたくなりますでしょ?
だから、うつ病者には 「 散歩しなさい! 」 ではなくて、どうすればベッドから起き上がれるか?そのためのきっかけ作りが必要だと思うんですよね。
僕は、10年間、作業療法士として、身体に障害を持った患者さんや高齢者に対して、リハビリを提供する仕事をしてきました。自分自身がうつ病になってから、リハビリの仕事自体は辞めてしまったんですけれど、提供してきたリハビリの内容を振り返ってみると、ベッドで寝ながらできる運動がいくつかあったんですよね。
朝、目が覚めた時に、ベッドから起きることが億劫でしょうがないんだけれど、ベッドの上で身動きとらずに考えごとだけしていると、不安や無気力な感じが増していきますよね。そこで、リハビリの仕事の経験をもとに、うつ病者でも、ベッドで寝ながらできる運動について3つ紹介します。
※紹介する運動は、うつ病の根本的治療となる運動内容ではありません。
※この記事では、身体障害者のリハビリに関わっていた作業療法士として、「この運動なら、うつ病者でもできるぞ?」と考え、実際のうつ病の自分自身でも行っている運動内容について書いています。
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うつ病者でも、寝ながらできる3つの運動
朝、ベッドから起きることが億劫に感じ、自分の体を起こせない時、僕は仰向けの状態でもがいていますが、あなたはいかがですか?おそらく、高い確率で、同じように仰向けで起き上がろうともがいているけれども、ベッドから体を起こしては、またベッドに横になるという行動を繰り返しているんじゃないでしょうか??
これから紹介する運動は、「ベッドから起き上がりたくても、仰向けの状態から起き上がることができないうつ病者の辛い状態」を逆手にとった方法です。
自覚がないでしょうけれど、実は、人間の頭や体は、とても重いんですよ。そんな重たい頭や体に比べると、手足は重さが軽いので、仰向けで寝ている状態でも、手足を使った運動が、比較的行いやすいです。
そこで、1つ目の運動は、足を使った「お尻をあげる運動」を紹介します。以下に、運動の方法を図にしてみました。
ちなみに、図の後には、運動の細かい説明をしていきますが、説明を読みながら、運動するのって、正直めんどくさいです。僕は、うつ病者の運動の目的は、筋力をつけることではなく、「体を動かすきっかけをつくること」にあると考えています。説明に合わせて的確に運動するよりも、自分が動けることが重要ですよ。
図を見てもらえれば、寝ながら運動できるようになっていますから、細かい説明を読むことがめんどくさければ、図だけを見て、形だけ真似してみてくださいね。
① お尻をあげる運動
幸運にも、そもそも、運動を始める前には、ベッドに仰向けに寝た状態でいますから、最初は、両膝を立ててみましょう。両足を閉じていると、お尻をあげる時に力が入りにくいので、足の幅は、肩の幅くらいにとるといいですよ。
両膝を立てると、自然と足の裏がベッドにつきますよね?足の裏をベッドにつけた上体で、足の裏をベッドに押しつけながら、自分のお尻を浮かせてみましょう。お尻をあげる時には、特に「両足のかかと」に力を入れて踏ん張ると、お尻があがりやすいです。
さて、あまり興味がないかもしれませんが、一応、この運動ではどこの筋肉を動かしているかというと、主に、お尻の丸みを作っている「大臀筋(だいでんきん)」という筋肉を使っています。
大臀筋は、人間が歩いたり、立っている時に体のバランスをとったり、日常生活のあらゆる場面で、使われる筋肉です。そのため、リハビリの病院では、入院すれば、必ずと言っていいほど行う運動なんですが、今回の運動の目的は筋肉をつけることではないですからね?なんとなく、「お尻のあたりを動かしているんだな~」と思いながら、気楽にやってみてください。
あえて筋肉の名前を出して説明をした理由は、自分がどこの筋肉を動かしているかについて知っておいた方が、動かしている体の部位に意識を集中でき、うつ病の症状による不安や無気力な感じから、意識をそらしやすいと、個人的に思ったからです。
② 軽めの腹筋
「① お尻をあげる運動」と同じように、仰向けで両膝を曲げた状態になり、両足を肩の幅に開きましょう。両膝を曲げて、肩の幅に両足を開いたら、ベッドから、頭~首を持ち上げます。頭~首を持ち上げた時に、「少しお腹に力が入ったかな?」くらいでいいです。
「腹筋」と聞くと、両手を頭の後ろで組みながら、お腹が痙攣してピクピクふるえるくらいに苦しく行うイメージがありますが、そんなに頑張る必要はありません。
もし、頭~首を持ち上げる程度の腹筋運動で、物足りなさを感じるような場合は、ベッドから肩あるいはお腹のあたりまでを浮かし、上体を持ち上げてみてください。持ち上げる体の部位が、頭⇒首⇒肩⇒お腹と増えていくごとに、腹筋にかかる負荷が高くなりますよ。
きっと、この軽めの腹筋をする時には、「手は、どの位置に置いておけばいんだろう?」と疑問に思われますよね?結論から言うと、どこでもいいです。
ベッドから起き上がることが億劫に感じられる時は、手を持ち上げるのも億劫でしょうから、両手は、自分の落ち着く場所に置いてください。あえて、手の位置を指定するなら、両手は、お腹の上に置くといいです。お腹の上に両手を置くと、軽めに腹筋を行った場合でも、腹筋の動きが手から感じとれるので、筋肉だけに意識を集中させやすいと思います。
③ 足をあげる運動
うつ病者でも、寝ながらできる運動の3つ目は、ベッドで足をあげる運動です。寝ながら足をあげるだけで運動になるの?と思うところでしょうが、うつ病で活動量が減っている状態で、筋力(筋肉が持っている力)が落ちている足にとっては、結構きつい運動に感じられるかもしれません。
足をあげる運動では、膝を曲げずに、自然な状態で仰向けに寝てください。足をあげる運動の方法は、太もも・膝・足先までをまっすぐ伸ばして、片側の足全体を天井に向かって持ち上げます。持ち上げた後に、足をすぐにおろしてもいいですし、5秒くらい持ち上げ続けてから、足を戻しても良いです。片足ごとに、繰り返してみてください。
ちなみに、持ち上げていない方の反対の足は、自然な形でベッドに置いておきましょう。
寝た状態で足をあげる運動では、主に、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)という太ももの筋肉を使っています。この大腿四頭筋の主な働きは、膝を伸ばすことなんですが、歩くこと以外にも、日常生活で踏ん張るような動きの時にも、よく働いてくれる筋肉です。余談ですが、膝から下の足の骨折をすると、よくこの運動をやらされますよ。
うつ病者が、運動を行う時のおすすめの考え方
以上の3つであれば、ちょっとでも、日中に活動できるレベルまで回復したうつ病者であれば、寝ながらできる運動だと思います。しかしながら、うつ病の回復期になったとはいえ、自殺願望があったり、不安や無気力感でいっぱいだったり、まだまだ体調が不安定な時が多いですよね?
だから、僕は、自分がうつ病になってからは、運動を行う時に「あるルール」を作っています。それは…
● 毎日の義務にしない
● 気が向いた時にやる
● 回数を決めない
● 負荷は気にしない(筋力をつけることが目的ではないから)
● 寝る前にはしない(興奮するから)
今回、紹介した寝ながらできる3つの運動は、筋肉をつけることが目的ではありません。目的は、ベッドから起き上がるきっかけをつくることです。
運動を義務化すると、運動できなかった時に、自分が無力に思えたり、自己否定的になったりするでしょうから、気が向いた時にやるくらいの気構えがおすすめです。筋肉をつける目的ではないので、何回やればいいというものではなく、運動をしようと思った時には、「 最低1回 」できればいいと思っています。くり返しになりますが、筋肉をつける目的ではないので、負荷も気にする必要ありませんからね。
おわりに
僕は、10年間、リハビリの仕事をしていましたが、ウォーキングやジョギングのような運動が好きでも、筋力トレーニングが大嫌いでした。ブログのトップページの細身の体が、筋トレ嫌いの象徴です。
でも、たしかに、筋肉には「動かさないと、どんどん硬くなっていく」性質があり、筋肉が硬くなると、体は余計に動かしづらくなります。
日常生活に必要な体力は、ベッドから起き上がって、何かしらの活動ができれば、徐々についてきますし、外出のための筋力は、散歩などの外出機会が増えれば、必要な分の筋力はついてくるもんです。だから、問題は、ベッドから起き上がるためのきっかけ作りなんです。
ベッドから起き上がる前のウォーミングアップのようなイメージで、今回紹介した寝ながらできる運動をやってみてください。