うつ病者の散歩の程度について、運動量の目安をリハビリ的に考えてみた
うつ病の回復には、散歩がいいと言われています。
インターネットで検索すると、散歩をすれば、うつ病で不足している「セロトニン」が増えると言われていたり、通院している精神科医からも散歩を薦められたり。どうやら、うつ病の回復に散歩が効果的であることは、疑いようのない事実のようですね。
たしかに、うつ病の研究論文を読んでも、運動をすると、うつ病の回復に効果があると言われています。
運動をすると、① セロトニン(幸せホルモン)を出す神経が働きやすくなる ② ストレスホルモンを調節するシステムが働きやすくなる など、抗うつ、抗不安作用があることが、うつ病の研究でも言われています。
参考:北ら(2010) 「うつ・不安にかかわる脳内神経活動と運動による抗うつ・抗不安効果」37(2),pp.133ー140,スポーツ心理学研究
しかし、「うつ病の回復に、散歩がいい」と言われても、どのくらい歩けばいいのかわかりません。、元々、散歩の習慣がなかった人にとっては、散歩を続けること自体が大変ですし、入院と違って、自分で活動量を管理しなければないないのが、通院のうつ病者です。
僕は、元々、作業療法士というリハビリの仕事を10年間行っていました。僕が働いていた職場は、主に、身体障害の患者さんを対象にしたリハビリ病院だったんですが、リハビリ病院では、散歩(歩く時間や距離を増やす練習)をする時に、ある指標を使って、活動量を調節していました。
その指標とは、「心拍数(脈拍)」です。心拍数(以下、脈拍)は、心臓が拍動している回数のこと。胸に手をあててみると、ドクドク、ドキドキしていますよね?そう、それのことです。
脈拍は、運動をしてからだに負担がかかれば、拍動する回数が上がっていきますし、休憩をしてからだを休めれば、拍動する回数が下がっていきます。脈拍の回数を測ると、散歩をしている時に、自分のからだに、どのくらいの負担がかかっているのか、把握することができるんです。
つまり、自分で、脈拍の回数を測れれば、散歩をする時のからだへの負担を自分で調節することができ、脈拍の回数から、自分の散歩をする時間や距離に、目安をつけることができます。
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うつ病者が散歩をする場合、どうやって自分で脈拍を測るの?
心拍数や脈拍と聞くと、専門的な医療用語に聞こえるかもしれませんね。しかし、安心してください。よく知られている血圧などの数値よりも、脈拍は、自分の手を使って、簡単に測ることができるんです。
下の写真を見てください。これが、自分で脈拍を測る方法です。測り方の詳細は、写真の下に、箇条書きにしています。
【自分で脈拍を測る方法】
① 自分の右手で、左手の手首の少し手前(写真のあたり)を触れてみてください。左手に触れる時は、右手の人差し指・中指・薬指の3本を使いましょう。この3本の指先は、からだの中でも、あらゆる刺激を敏感に感じとることができる部分です。
② 左手の手首の少し手前(写真のあたり)を触れてみると、「ドクッ…ドク…」と、一定のリズムで、拍動を感じられませんか?それが、脈拍です。いま、「手首のあたりを通っている血管(動脈)に触れることで、心臓の拍動を感じとっている」と思ってください。
③ 手首に拍動が感じられたら、1分間に、何回、拍動が感じられたかを測ってみてください。この時、1分間、ずっと拍動する回数を測っていてもいいですし、15秒間測った後に、15秒間の拍動の回数を4倍しても構いません。(例:15秒間に、20回拍動が感じられた。20×4=1分間の脈拍は、80回)
散歩をする前に測った1分間の脈拍の回数が、実際に、散歩をしてみた時に、どのくらいの時間や距離が、自分のからだにあっているかを知る目安になっていきます。
脈拍を測った後、どのように散歩の時間や距離を設定する?
1分間の脈拍の回数を測ることができたら、次は、どのように、自分に合った散歩の時間や距離を設定するか、見ていきましょう。
そもそも、疑問に思ったことありませんか?うつ病者と一言に言っても、寝たきりの期間やうつ症状の状態、体型、元々の運動習慣などが違うから、一様に「散歩をするといいよ!」と指導されていることに。
だから、僕は、うつ病者が、リハビリの一環として散歩(運動)をするのであれば、何かしらの基準があった方が良いと考えています。そこで、からだのリハビリをする時に、よく使われている運動の基準を使ってみてはと考えた訳です。
下の枠の中には、からだのリハビリで使われている運動の基準について、簡単にした内容を書いています。運動の基準の名前や細かい点は、通院中のうつ病者が、単に散歩をする場合にはあまり関係ないので、赤い太字の部分だけに注目してみてください。
アンダーソン・土肥の基準(運動の基準)
1)運動を行わない方がよい場合
・安静にしているけど、脈拍の回数が120回以上
・運動前に、すでに動機や息切れがある
2)途中で、運動を中止する場合
・運動中に、脈拍の回数が140回以上になった場合
3)運動を一時中止して、回復を待って再開する
・脈拍の回数が、運動する前の30%を超えた場合。2分間、安静にしていても、脈拍の回数が10%以下に戻らない場合、運動を中止するか、軽い運動に切り替える
・脈拍の回数が120回を超えた場合
・軽い動悸、息切れがあった場合
参考:宮野佐年(1995) 運動負荷とそのリスク,32(5),pp305,リハビリテーション医学.
文字だけで、運動の基準を見ると、頭がゴチャゴチャするでしょうから、うつ病者に、1番関連しそうな 「3)運動を一時中止して、回復を待って再開する」の部分を図にしてみました。
つまり、散歩をする時には、
① 1分間の脈拍の回数が、散歩をする前の30%を超えないように
② 1分間の脈拍の回数が、120回を超えないように
③ 軽い息切れになる前まで
以上の場合であれば、「からだ的には」、適度な散歩の時間や距離であると言えます。
例えば、散歩に行く前に、自宅のリビングで、ちょっと手首に指先をあてがって、脈拍を測ります。その後、散歩をしながら、公園のベンチに座ったり、カフェでお茶をしたりする時に、休憩をしますよね?その時に、もう一度、脈拍を測ってみましょう(※きっちりでなくても、構いません。あくまで目安です)。
もし、上に挙げた①~③の基準を超えているようであれば、その日の散歩の時間や距離は、活動量としては多かったかもしれません。あるいは、脈拍の回数に、ほとんど変化がなければ、「からだ的には」、もう少し、散歩の時間と距離を伸ばしてもいいかもしれません。このように考えると、散歩をする前後の脈拍を測り、自分で自分の体に合った散歩の時間や距離のひとつの目安が作れると思いますよ。
ただし、うつ病者は、「今日は、気分がのらない」、「散歩が億劫に感じられてきた」、「からだは疲れていないけれど、精神的に疲労感がある」など、意欲の問題で、散歩が負担になる場合もありますよね?散歩をする気分にならない時は、からだが動けそうであっても、無理をしてまで、散歩をする必要はないですよね。
うつ病者の散歩は、目的があった方が続けやすい
さて、うつ病の回復のためといっても、元々、運動習慣がなければ、ただの散歩も続かないものです。運動機会として、散歩を習慣化するには、散歩をする「目的(楽しみ)」を持った方が続けやすいです。
世の中には、「ただただ、歩くことが好き!」という人がたまにいますが、あなたはどうでしょうか?おそらく、そのタイプの人間に属していないのであれば、散歩を楽しむために、人生を過ごしている訳ではないですよね?
散歩をした先で、普段行ったことのないような場所に行ったり、知らなかった隠れ家的カフェみたいな場所を見つけたりできるから、散歩をする楽しみがあるんです。
僕の場合は、コーヒーチェーン店に行って、ブログを書いたり、ネットサーフィンしたりすることが好きです。だから、散歩とうつ病の療養を兼ねて、コーヒーチェーン店には、よく行っています。
グーグルマップで調べてみると、僕の自宅からコーヒーチェーン店までは、歩くと20分、距離にすると約1.4㎞ありました。そこで、実際に、自分の1分間の脈拍が、コーヒーチェーン店までの片道20分の散歩で、どのくらい変化をするか、データをとってみました。
散歩前の僕の脈拍は、1分間に88回でした。その脈拍が、コーヒーチェーン店まで20分間散歩をしてみると、1分間に100回まで上がっていることがわかりました。ちなみに、全くといっていいほど、息切れはありませんでした。
先ほどの運動の基準で考えると、僕の場合は、散歩前の脈拍が88回だったので、1分間に、脈拍が114回までなら、散歩を続けても問題ありません。体感的には、散歩としては、物足りなさを感じるくらいでした。
ただし、コーヒーチェーン店からの帰り道も歩きますし、自宅に帰ってからも、家事をしているので、1日の活動量を考えると、20分間、1.4㎞の散歩が、僕にはちょうど良い散歩だったように感じました。
「運動をしよう!」と意気込むよりも、コーヒーを飲むいくついでに散歩をして、結果的に、それが運動になっている方が、習慣的に散歩を続けやすいです。うつ病の治療には、「楽しむこと」もまた良いとされているので、ぜひ、「散歩をしよう!」というよりも、「○○まで行ってみよう!」と考えてみては、いかがでしょうか?