「うつ病と甘えの見分け方」当事者が経験した自覚症状と受診までの流れを紹介
精神的不調の原因をつきとめるのは、自分では難しいものです。
そうは言っても、不調の原因が「甘え」のような気がすると医療機関を受診しづらいでしょう。
僕にはうつ病の治療経験があるんですが、当初は体調不良の原因を「甘え」だと自己判断していました。
その結果、医療機関の受診を先延ばし、うつ病の症状に悩まされる期間が長くなったんです。
うつ病を放っておくと、つらい時間が長くなったり症状が重くなったりしかねません。
受診するかどうか判断するためには、何を基準にすれば良いのでしょうか?
この記事では、「うつ病」と「甘え」の見分け方や医療機関を受診する流れについてお伝えします。
目次
「うつ病」と「ふつうのうつ気分」の見分け方
生きていれば、多かれ少なかれ気持ちが不安定になるものです。
誰にでも憂うつになったり落ち込んだりした経験があるので、精神的な不調があっても軽視しやすいのでしょう。
そもそも「ふつうのうつ気分」と「うつ病」には、どのようなところに違いがあるのでしょうか?
見分け方にはいくつかのポイントがありますが、ここでは防衛医科大学教授で六番町メンタルクリニック院長の野村 総一郎医師の見解を紹介します。
ふつうの「うつ気分」 | うつ病 | |
憂うつの原因 | 原因ははっきりしていて、それが解決すればよくなる | 原因がわからないことも多い |
憂うつの程度 | 程度はそれほど重くなく、仕事や家事は何とかこなせる | 耐えがたいほど重く、日常生活に支障を来す |
憂うつの長さ | 原因になっている問題が解決すればよくなる。2週間以上続くことはない | 耐えがたいほど強い落ち込みが2週間以上続く |
状況による気分の変化 | 楽しいことやうれしいことがあったら気分はよくなる | 何をしていても、何かよいことがあっても、気分は落ち込んだまま |
1日の気分の変化 | それほど変化はない。夕方になるにつれて疲れる程度 | 朝がもっとも調子が悪く、夕方から夜にかけてよくなることが多い |
体の症状 | 体の症状が伴うことは少ない | 不眠や食欲不振、全身の倦怠感など、体の症状が伴うことが多い |
人間関係 | 仲のよい友人や家族と話すと、気が紛れることが多い | 誰にも会いたくないし、話もしたくない |
(引用 野村 総一郎(2016):うつ病のことが正しくわかる本.西東社)
「ふつうのうつ気分」は原因がはっきりしていますし、気持ちが不安定になりながらも仕事や家事をおこなったり、楽しいことをしたりすることで気がまぎれるのが特徴です。
例えば、失恋をする・上司に叱られる・苦手な人と会うといったような状況になれば、誰でも憂うつになったり落ち込んだりしますが、「ふつうのうつ気分」なら新しい恋をする・上司に褒められる・仲の良い友人に会うなどすればすぐに状態が改善します。
一方でうつ病の場合は、強い憂うつ感や落ち込みがとても長く続きます。
それに加えて、うつ病では精神的不調だけでなく身体的な症状が現れることもポイントです。
代表的な症状としては不眠・食欲不振・倦怠感などが現われ、仕事の日の朝になってもどうしてもベッドから起き上がれないことがよくあります。
ここで挙げたように、「ふつうのうつ気分」と「うつ病」にはさまざまな違いがあるので、自分のうつ状態がどちらに当てはまるか適切に見分けることが大切です。
うつ病が「甘え」に思えてしまう理由
では、どうしてうつ病であるにも関わらず自分では「甘え」に思えてしまうかというと、その理由は主に次の3つが挙げられます。
午前を中心に調子が悪く、夕方にかけて体調が回復する
うつ病では、症状に「日内変動」が見られます。
「日内変動」とは一日のなかで病気の症状が良くなったり悪くなったりすることです。
うつ病の日内変動は、朝を中心に調子が悪く夕方にかけて体調が回復するのが特徴です。
朝はベッドから起き上がることも大変なのに、仕事が終わる頃には調子が戻ることもよくあるので、自分ではうつ状態が働きたくないだけの「甘え」に思えてしまうのです。
思考力が低下する
うつ病になると思考力が低下するため、何でも自分に責任があるように感じられます。
この感覚を「罪責感(または自責感)」と言います。
罪責感がある場合には、憂うつな気分になったりやる気が湧かなかったりしても、病気が原因とは思わずに自分の気持ちに問題があると考えがちです。
「ふつうのうつ気分」と「うつ病」の判断がつかない
憂うつ感や落ち込みをはじめ、うつ気分は病気に限らず起こるので、はじめてうつ病になった時には「ふつうのうつ気分」と「うつ病」の判断がつきづらいものです。
体調不良があってもうつ病を疑うことができなければ、自分では精神的不調の原因を「甘え」と判断してしまい、病気のサインを見逃すこともあります。
うつ病以外の病気の可能性もある
精神疾患のなかには、うつ病と似たような症状が現われる病気もあるので注意が必要です。
うつ病と間違われやすい代表的な精神疾患には、次のようなものがあります。
適応障害
「適応障害」は、特定の状況や環境に置かれると、精神的不調になる病気です。
例えば、職場にいるだけで憂うつになったり不安になったり、暴力を振るうパートナーと一緒にいることで動悸やめまいがしたりします。
ただし「適応障害」は、うつ病とは違って、ストレスの原因となる状況や環境から離れると症状が緩和・消失します。
新型うつ病
「新型うつ病」は、非定型うつ病のひとつです。
従来のうつ病とは違い、気分の浮き沈みが激しかったり、好きなことは楽しめたりするのが特徴です。
また、寝過ぎ・食べ過ぎの傾向があるので、一見すると病気とは判断されないことも多いです。
その一方で、職場に行くと著しいうつ状態に陥るといった病態を示します。
なお、「新型うつ病」とはマスコミ用語で医学的な病名ではありません。
自律神経失調症
「自律神経失調症」は、からだの調子を整える自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、さまざまな精神的・身体的不調を起こした状態です。
「自律神経失調症」にも睡眠障害や倦怠感・不安感などが現われますが、うつ病とは違って強い抑うつ感や著しい意欲低下・希死念慮(自殺願望)などを呈すことは少ないのが特徴です。
以上のように、一口に精神的不調といってもうつ病以外の病気の可能性も考えられます。
ですから、体調不良の原因をつき止めたり適切な治療を受けたりするためには、専門医に相談することが大切です。
うつ病を疑ってから受診するまでの流れ
専門医の診察の必要性が理解できても、精神科や心療内科を利用するイメージが湧かないと、実際には受診を躊躇してしまうものでしょう。
そこで、精神科や心療内科が利用しやすいように受診するまでの流れを紹介します。
① 自覚症状を記録する
まずは、自覚症状を記録しておきましょう。
うつ病は、一日のなかでも症状が良くなったり悪くなったりするのが特徴です。
そのため、普段はつらい自覚症状があるにも関わらず、受診時には症状が緩和・消失しているということも考えられます。
こうなると、受診しても自覚症状を医師に説明しづらくなってしまいます。
医師に正確な状況を伝えるためには、自覚症状をメモやノートに記録しておくことをおすすめします。
② 精神科・心療内科を探す
うつ病は、精神科・心療内科で専門医の診察を受けることができます。
身体よりも精神症状のほうが強い場合は「精神科」、精神よりも身体症状のほうが強い場合は「心療内科」と便宜的に分けられていますが、いずれの診療科でも同じような診療を受けられます。
うつ病の治療には長い期間を必要とするケースがほとんどであるため、クリニックや病院は無理せず通いやすい場所を選ぶようにしましょう。
③ 受診の予約をする
精神科・心療内科では、医師はさまざまな会話を通じて患者の状態を確認していくため、診察には時間がかかります。
初診では比較的大きな病院であると15分程度、個人経営のクリニックでは30分~1時間かかることもあります。
そのため、予約をしないで医療機関に行っても窓口で診察を断られてしまうことも。
受診前には、ホームページを確認しながら指定された方法で予約をすることが重要です。
④ 受診する
予約当日は、あらかじめ自覚症状を記録したメモやノートと保険証、通院費用(5,000円程度)を持って受診します。
精神科・心療内科の待合室は、内科などほかの診療科と変わりばえありません。
居眠りをしたり、新聞やスマートフォンを見たりする方も多いです。ですから、余計な気構えをすることなく気楽な気持ちで受診しましょう。
まとめ
ここでは、「うつ病」と「甘え」の見分け方を説明しながら受診する流れを説明しました。
「ふつうのうつ気分」に比べると、うつ病は強い憂うつ感や落ち込みが長く続き身体症状も現われます。
また、うつ病は一日のなかでも症状が良くなったり悪くなったりするので、一時的に体調が回復しても、病気が疑われる場合には専門医に相談しましょう。