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うつ病当事者が働きやすい環境に調整するには?イラストの作成依頼を通じて気づいたこと

2021/10/07
 
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webライター・ブロガー。うつ病当事者。うつ病になった人に向け、会社で働く以外のフリーランスとしての働き方・生き方を情報発信。うつ病と付き合いながら、〝自分らしい〟人生の歩み方を模索中。
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管理職の方のなかには、うつ病で休職した部下の仕事復帰を積極的に支援したいと思う人もいるでしょう。上司としては、部下の体調面も考慮しながら仕事のサポートをしたいですし、同じ職場の仲間にはできるだけ健康的に働いてほしいものです。

 

ところが、うつ病の部下が仕事復帰をする時には、必ずしも主治医からアドバイスをもらえるわけではありません。「精神科医(または心療内科医)」と一口に言っても、復職への関わり方は主治医によっても変わってきます。

 

現在僕はフリーランスとして働いているのですが、先日、うつ病当事者の方にイラストの作成依頼をする機会がありました。実際に、仕事の依頼をしてみることで、うつ病の方を雇用する時に考えておくべき配慮点や働きやすい環境調整の仕方などに気づくことができました。

 

ここでは、うつ病の方に仕事を依頼した経験を踏まえて、雇用する側の管理職が部下の仕事復帰を支援するために必要な配慮や環境調整について紹介します。

そもそも、うつ病とは?

うつ病の部下をサポートするには、病気の症状について理解が必要です。

 

実は僕自身もうつ病を患っているのですが、この病気はただ憂うつな気分になるだけの病気ではなく、仕事に支障をきたすさまざまな症状が現われます。そのため、もしもうつ病の症状について理解していないと、部下が復職をしても、管理職としてしっかりと働き続けられるようなサポートができません。

 

ですから、まずはうつ病の症状を知って、部下が置かれている心身の状況について理解していきましょう。

 

「感情面」の症状

うつ病のもっとも代表的な症状には、気分が憂うつになったり、物事に対する興味や喜びの気持ちが湧かなくなったりする「感情面の症状」があります。

 

病気に関わらず、誰でも憂うつな気分になりますが、通常の「ゆううつな気分」とうつ病の「抑うつ症状」には次のような違いがあります。

  通常の「ゆううつな気分」 うつ病の「抑うつ症状」
うつ状態の程度(強さ) 落ち込みの程度は軽く、原因がなくなれば気分も晴れる 朝起き上がれないほどの、耐えがたい落ち込み
うつ状態の持続期間 数週間以上におよぶことはない 数週間以上つづく
うつ状態になった原因 はっきりしており、それが解決すればよくなる はっきりしないことが多い
うつ状態の変化 うれしいことや楽しいことがあると、幸せな気分になる 喜ばしいことがあっても、気分はよくならない
日常生活の変化 仕事や家事をやりたくないとは思うが、何とかこなせる 仕事や家事が手につかなくなり、日常生活に支障をきたす
1日の気分の変化 それほど変化はなく、夕方になると疲れを感じる 朝はひどく調子が悪く、夕方から夜にかけてよくなることが多い
人間関係の変化 仲のよい友人と会っておしゃべりすると気がまぎれる 誰とも会いたくない。ときには家族とも顔を会わせたくない
趣味などに対する興味・関心 取り組んでいるときのほうが気がまぎれ、楽しいと思える 興味や関心がなくなり、無理に取り組んでも集中できず、疲れるだけ

(引用 坪井 康次(2017):患者のための最新医学 うつ病.高橋書店

 

復職ができる段階の方は「感情面の症状」が消失している人も多いですが、日によっては、「抑うつ状態」で体調を崩す場合もあるので注意が必要です。

 

「感情面の症状」があると、まわりから見ると顔に表情がなくなったり、化粧やおしゃれ・ひげそりなどの身なりに気を遣わなくなったりするような様子が見られます。管理職として部下の体調不良にできるだけ早く気づくためには、普段から表情や身なりに気を配っておけると良いでしょう。

 

「意欲・行動面」の症状

うつ病の人は“やる気がない”“怠けている”といったイメージを持たれることも多いですが、これは「意欲・行動面の症状」が現われるからです。

 

うつ病の「意欲・行動面の症状」によって、行動力がなくなったり、決断力が鈍くなったりした状態は専門的に「精神運動抑制」と言い、この状態に陥ると次のような様子が見られるようになります。

 

・遅刻や欠勤が増える

・文字や数字が頭に入らない

・上司や同僚から言われたことを忘れっぽくなる

・ひとつの仕事にひどく時間がかかる

 

いずれにしても仕事や生活の仕方がだらしなくなるので、上司からすると部下が“やる気がない”“怠けている”ように見えるのです。もともと真面目で、仕事に一生懸命な部下の場合には些細なだらしなさが体調不良のサインかもしれません。

 

厄介なことに、うつ病の人は、体調不良を理由に迷惑をかけたくない気持ちも強いので、上司や同僚に自分からは相談しづらいということもよくあります。ですから、管理職の視点から「だらしなくなった」と感じた時には、部下に最近の体調の良し悪しについて声をかけてみることをおすすめします。

 

「思考面」の症状

うつ病になると、思考力や集中力・記憶力などの認知機能も低下します。この状態を簡単に理解するには、“頭の働きが悪くなっている”とイメージしてみたほうがわかりやすいかもしれません。

 

例えば、仕事の効率をあげる考えが浮かばなかったり、うっかりミスが増えたりするのは、職場でも見られやすい「思考面の症状」です。本人のなかでは一生懸命に働こうとしているのですが、うまく仕事ができずミスも増えるので、まともに仕事ができない無力感や自責感が徐々につのっていきます。

 

実は、うつ病がほぼ回復(寛解)した方にも、集中力や記憶力などの認知機能の低下が見られると言われます。“頭の働きが悪くなっている”と、健康な頃と同じ仕事をしても、ひどく時間がかかったりミスをしてしまったりすることも多いです。

 

そのため、管理職には、“頭の働きが”悪くなっている”ことも考慮しながら、仕事量や仕事内容を考えていく配慮が必要になるでしょう。

 

 身体症状

うつ病では、精神的な症状以外に身体的な症状も現われます。なかでも睡眠障害は、うつ病を発症したほとんどの方に見られる症状で、しっかりと眠れないことで疲れやすかったり、仕事に集中できなかったり人が多いです。

 

僕が通院している精神科の主治医も、診察の時には「眠れているか?」と必ず質問をされるのですが、それだけ睡眠がとれているかどうかは体調を確認する指標として大事なのかしれません。

 

睡眠障害をはじめ身体症状が強い場合も生活に支障をきたしやすいので、仕事復帰をする前には、身体面の不調の有無も部下に確認しておきましょう。

 

以上のように、うつ病を発症した人では心身にさまざまな不調が起こります。もちろん、人によって症状の種類や程度は変わってくるので、管理職として仕事のサポートをするためには、部下に可能な限り症状や働く上での配慮点について聞いておくことが重要です。

 

雇用する側が配慮しておきたいこと

うつ病について理解を深めた上で、雇用する側はどのような点に配慮すれば良いのでしょうか?ここからは、うつ病当事者が置かれている状況や心情を踏まえながら、管理職が配慮しておきたい点について説明します。

 

日によって、体調が変動しやすい

うつ病が回復して仕事復帰できたとしも、日によっては体調が変動しやすいです。元気に働けているように見えても、時にはやる気が湧かなくなったり、集中力が続かなくなったりして仕事が全く手につかなくあることもあります。

 

この突然の体調不良は、「揺り戻し(ゆりもどし)」と言われうつ病では必ず見られる現象です。実際に、僕がイラスト作成を依頼した方も、「揺り戻し」による体調不良を心配しながら仕事をおこなっていたようで、ご自身のブログのなかで当時の様子を次のように述べていました。

返信に時間がかかること・制作期間中に具合が悪い日が来るであろうこと、
これらが私自身気にならないではありませんでした。

(引用 考えの調理場

 

仕事ができるからと言って、人によっては体調を崩しやすいのです。

 

そこで、僕の場合は、ご本人が体調不良になることも考慮してイラストの提出期限を長めにとるようにしました。納期に余裕を持たせたことで、ご本人としても調子が良い時を見計らいながら少しずつ作業を進められたようです。

 

このように、雇用する側としては、体調を崩す可能性も考えながら締め切りを長めに設定したり、ノルマを減らしたりして、本人が時間と気持ちに余裕が持てるよう配慮することも大切です。

 

疲れやすく、こまめに休息が必要

復職直後のからだは、とても疲れやすいのも特徴です。というのも、休職中に体力が落ちていたり働く感覚を忘れていたりするので、本格的に仕事ができるまでにはもうしばらく時間がかかるからです。

 

うつ病が回復して復職できる段階になると、仕事復帰に向けて準備をしている人もいます。例えば、散歩やランニング・サイクリングをして仕事ができる体力を身につけるリハビリをする人。または、書類の作成や通勤の模擬練習を通して仕事のシミュレーションなどをする人もいます。

 

ところが、どのようなシミュレーションををおこなっても、模擬練習と実際の仕事とではずいぶんと状況が異なります。

 

実際の仕事は、練習と違って勤務時間が長いですし、ノルマや人間関係なども意識しながら働かなければならないので、うつ病で休職してた人にとっては心身にかかる負担が大きいです。そのため、復職してもはじめのうちは疲れやすく、こまめな休息が必要になるということも。

 

復職直後だからと言って、特定の部下だけに余分な休憩をとらせるわけにはいかないかもしれませんが、長く健康的に働いてもらうためには、可能であれば休息を優先させながら働いてもらいたいものです。

 

働ける自信がない

うつ病になると、仕事に対して自信を失いがちです。それには、2つの原因があります。

 

ひとつは、意欲や思考力などが低下するので、仕事にやる気が湧かず集中して働けない自分が“ダメな人間”のように感じるからです。もうひとつは、うつ病の発症前後に、仕事で成果をあげられなかったりミスをしたりした時の嫌な記憶が残っているので、自分のことを“仕事ができない迷惑な社員”といったように否定的に見ているからです。

 

上司の立場からすると「もっと自分に自信を持って!」と思うかもしれませんが、病気をきっかけに失った自信は精神論だけでは取り戻せないでしょう。

 

では、そういった部下に対してどういった配慮をすれば良いかというと、部下が働く自信がつけられるように自分のペースで仕事をする機会をつくることです。僕がうつ病当事者の方にイラスト作成を依頼した時にも、仕事を終えたあとに次のような感想をもらうことができました。

好きな“絵を描くこと”で認めてもらえて、自己実現というと大袈裟かもしれませんが、とても励みになりました。

(引用 考えの調理場

 

復職をするまではそもそも仕事をする機会がないので、失った自信が取り戻せていない当事者の方も多いです。

 

管理職には、精神論で鼓舞するのではなく、部下が取り組みやすい仕事について考えたり本人と話し合ったりしながら、少しずつ仕事を成功させる機会をつくる配慮が必要です。

 

上司や同僚に後ろめたさを感じている

一般のサラリーマンが会社を休んだ日のように、うつ病の当事者の方も、休職をしていたことに対して後ろめたさを感じています。休職したことで上司や同僚に迷惑をかけた気持ちが強いと、一刻も早く挽回しようと考えている場合も多いです。

 

上司の方のなかにも「休んでいた分もがんばって働くべき」と考えている人がいるかもしれませんが、これは復職を失敗させる考え方です。なぜなら、仕事復帰直後には頑張りすぎることで疲労が溜まりやすく、体調を崩しがちだからです。

 

うつ病は再発しやすい病気であり、その再発率は60%と言われています。うつ病を再発すると、当事者は再び働けない状態になりますし、管理者の立場では貴重な労働力を失うことにもなりかねません。

 

ですから、部下が頑張りすぎてしまう気持ちもくみ取りながら、時には管理職として本人が頑張りすぎないように仕事をセーブさせてみても良いかもしれません。

 

ここまで、部下の復職に伴い、管理職が配慮しておきたいことについて説明をしてきましたが、職場の体制や風潮によっては一管理職が配慮できることにも限りがあるでしょう。

 

しかしながら、直属の上司が自分の状況や心情を少し理解してくれるだけでも、当事者としてはずいぶんと働きやすくなるものです。

 

復職をする時には、部下が求めるサポートの内容と職場側がおこなえる配慮をすり合わせて、お互いが合意した上で働きはじめられることが重要です。

 

働きやすい環境に調整するには?

では、雇用する側にできる、うつ病の部下が働きやすい環境に調整する具体的な方法を見ていきましょう。

 

お試し出勤や業務ができる機会をつくる

復職前には、お試し出勤や業務ができる機会をつくり、部下が通勤や仕事に慣れる練習をする機会をつくりたいです。というのも、お試し出勤や業務をくり返すと、当事者としては働く感覚や自信を取り戻すことができますし、仕事をする生活のリズムに切り替えていきやすいからです。

 

特に、お試し出勤を実施する場合は、厚生労働省の職場復帰支援の手引きに記載された次の注意事項も押さえておきましょう。

試し出勤については、具体的な職場復帰決定の手続きの前に、その判断等を目的として行うものであることを踏まえ、その目的を達成するために必要な時間帯・態様、時期・期間等に限るべきであり、いたずらに長期にわたることは避けること。

(引用 厚生労働省 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き

 

「本当に働けるのか?」、管理職にとってもお試し出勤や業務は部下の体調や労働力を確認する上で欠かせません。ですから、職場側でおこなえる復職の準備として、部下と話し合いながらお試し出勤の方法を検討してみてはいかがでしょうか?

 

職場に慣れることを最優先目標にする

休職した状態から仕事を再開するには、色々な不安がつきものです。僕がイラスト作成を依頼したうつ病当事者の方も、仕事をおこなう上で次のような不安を抱えていました。

 

・しっかりと仕事ができるかどうか

・相手に迷惑をかけないか

・具合が悪くなったらどうしよう

 

仕事を再開するには、こういった不安を軽くする時間も必要です。もしも強い不安を抱えたまま仕事を続けていると、仕事に集中できなかったり、憂うつな気分が強まったりして再び体調を崩してしまうということにもなりかねません。

 

こうした仕事に不慣れな部下の状態を踏まえると、復職してしばらくは、部下の最優先目標を「職場になれること」にしたほうが良いでしょう。

 

もちろん、上司としては、社員のマンパワーも限られているので復職したからには早く仕事で成果をあげてもらいたいものです。ですが、成果を焦ったところで、職場の雰囲気にさえ慣れていない状態の部下を頑張らせても、かえって仕事の効率は悪くなります。

 

職場に慣れることからはじめて徐々に仕事を任せていったほうが、長い目で見た時にはより多くの仕事をして成果をあげてくれるでしょう。

 

心身を休められる時間や場所を設ける

また、復職直後はとても疲れやすいので、心身を休められる時間や場所を設けるのも働きやすい環境に調整する方法のひとつです。特に体力が低下していたり、集中力が続かなかったりする方は、何時間も連続で作業することが困難になります。

 

実は、僕自身も仕事復帰した頃には1~2時間に1回、10分くらいを目安にソファで横になって休憩をとりながら働いていました。疲労が蓄積した状態で働き続けるよりも、少し休憩をとってリフレッシュしたほうが仕事の効率は良くなりますし、心身にかかる負担も少ないです。

 

例えば、職場に空き部屋や使用頻度の少ない場所があるのなら、そういった場所を休憩スペースとして利用するのも良いかもしれません。

 

上司からも声かけや面談の機会をつくる

それから、復職をした部下には、上司からも声かけや面談の機会をつくることが大切です。

 

休職をしていた部下としては少しでも管理職の負担を減らしたいと思っているので、仕事が順調に進んでいない場合も自分からは上司に体調の相談がしづらいものです。

 

注意が必要なことは、部下が相談にこないからといって必ずしもうまく仕事ができているとは限らないこと。放っておくと、再び休職が必要なくらいに体調を崩していることもあります。

 

少なくとも、仕事が軌道にのるまでは、注意深く部下の仕事ぶりを確認しながら積極的にコミュニケーションを図っていきましょう

 

雇用する側の協力が欠かせない

うつ病で休職していた方にとって、復職には雇用する側の協力が欠かせません。たしかに、病気による体調不良の影響も残っているのですが、「まわりのサポート」と「働きやすく調整された環境」があれば仕事を続けていくことができるものです。

 

ただし、そうは言っても、管理職自身にはうつ病の経験がないでしょうし、専門家でもありませんからわからないことが多くて当たり前です。管理職としてサポートをするにも、本人や主治医・同僚などとも相談して、復職の問題についてひとりで抱え込まないことも大切ではないでしょうか?

 

管理職も、関わる人をうまく巻き込みながら部下の復職を支援していきましょう

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