「うつ病の回復期には波がある」体調が変動しやすい時期の過ごし方を紹介
うつ病の回復期には、体調の波がつきもの。
調子が良いと思っていたら、翌日には憂うつ感や無気力感。誰でも体調の波が大きければ、調子が戻っていくのか不安になるでしょう。
実は、僕自身も、うつ病を発症してから約4年ほど体調の波に悩まされてきました。
調子が悪い日には、家事や仕事などをおこなうこともできず、よくソファやベッドでゴロゴロしていたものです。
回復期の体調の波は避けて通れませんが、僕の場合は、普段の生活を工夫することで楽に過ごせることもありました。
ここでは、うつ病の回復期の波について説明するとともに、楽に過ごしやすい生活の工夫について紹介します。
目次
うつ病には、3つの病期がある
うつ病には、次の3つの病期があります。
急性期 | 気分の落ち込み、不安、イライラ、不眠、食欲の低下などの症状がもっとも重くつらい期間 |
回復期 | 調子が良くなったり、また少し落ち込んだりというように上下しながら徐々に改善していく時期 |
再発予防期 | 「回復への最後の総仕上げ」ともいえる時期 |
(引用 坪井 康次(2017):患者のための最新医学 うつ病.高橋書店)
このように、うつ病は「急性期」「回復期」「再発予防期」を経て、徐々に寛解へと向かっていくのです。
厚生労働省によると、一般的にうつ病の急性期は1~3ヵ月、回復期は4~6ヵ月、再発予防期は1年以上と言われています。
しかしながら、うつ病は、回復のスピードに個人差が大きいです。
人によって回復のスピードが変わってくるので、病期は「○○ヵ月」と厳密にわけられるものではないのだそう。
僕の場合は、回復期と思われる期間が4年ほどあったように感じています。
当事者の立場からすると、いまがどのような時期なのか考えながら、療養に専念したり、社会復帰に向けて負荷をかけたりすることが大切になるでしょう。
うつ病は、直線的に回復しない
うつ病で療養中の方のなかには、からだが順調に回復していかないことに、もどかしさを感じている人もいるでしょう。
調子が良い日には色々なことに頭が働きますし、からだも動きます。
一方で、調子が悪くなるとベッドから起き上がれなくなったり、物事に集中できなくなったりもします。
日に日にからだが良くなっていかないと、本当に回復していくのか不安になりますよね。
僕の場合も、体調が良くなったり、悪くなったりをくり返す日々が長く続いたんです。
そこで、順調に回復しない現状を主治医に相談してみたのですが…
その時、次のような助言をされました。
主治医の助言を言い換えると、うつ病という病気は、直線的に回復していかないことのほうが普通と言えるでしょう。
体調が良くなったり悪くなったりをくり返していても、回復をあきらめずに療養を続けていくことが大切です。
なぜ、回復期に体調の波が見られる?
急性期や再発予防期に比べると、回復期は、もっとも体調の波がある時期です。
では、なぜうつ病の回復期は、体調の波が見られやすいのでしょうか?
その理由は、主に次の2つが考えられます。
「揺り戻し」がある
神戸大学の名誉教授であり精神科医の中井 久夫医師によると、うつ病から回復する時には、からだの中で体調をうつ状態へ引き戻そうとする力が働くと言います。
このうつ状態に引き戻す現象を、「揺り戻し」と呼びます。
病気がよくなろうとすると、それを引き戻しにかかる力がはたらく。 ~中略~ これは別に不思議なことではなくて、心も体も現状を維持しようとする力が非常に大きいからです。 ~中略~ 回復に向かう変化のときには、「必ず揺り戻しがある」ということを念頭におきながら眺めていく方がいいでしょうね。 ~中略~ 一気に回復する人もないではありませんが、揺れながら回復していくほうがふつうでしょう。
(引用・参考 中井 久夫(2006).回復期は、からだに注目 精神看護 9(5),72)
「揺り戻し」は、うつ病の回復過程に見られるからだの自然な反応です。
つまり、体調に波があるということは、「からだが回復途中である証拠」といったように、前向きに考えみると良いのではないでしょうか?
活動と休息のバランスが崩れやすい
もうひとつの理由は、活動と休息のバランスが崩れやすいためです。
急性期には、睡眠や食事くらいしかできなかったからだ。
回復期になれば、色々な活動ができるようになります。
散歩、家事、育児、趣味など。
当事者としてはできる活動が増えた喜びで、ついついからだを動きすぎてしまうものです。
ところが、回復期のからだはまだまだエネルギーが少なく、疲労やストレスにも弱いです。
動きすぎることでエネルギーを消耗し、疲労やストレスが溜まりすぎるということも多くなるでしょう。
回復期は、このような活動と休息のバランスの崩れによっても、体調の波が見られやすくなっています。
回復期にできる生活の工夫
うつ病の回復期の波とうまく付き合うには、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか?
ここからは、回復期にできる具体的な生活の工夫を紹介します。
体調が良い時に動きすぎない
体調が悪い日は、憂うつ感や無気力感などがあるので、誰でも大事をとって慎重に行動するものです。
一方で、体調が良い日には、頭も働くしからだも動くので、調子に乗って動きすぎてしまうことも多くなりやすいでしょう。
もちろん、自分の「やりたいこと」がある時には、積極的に取り組んでいくべきです。
人は、好きな課題に没頭していると、高揚感を感じたり、病気のことを忘れたりできるとも言います。
問題は、動きすぎないように注意することです。
どのくらいの活動量が適切かは、人によって変わってくると思いますが、疲労やストレスが残らないように早めに休息をとったり、いつものペースを大きく崩したりしないように、活動量の調節が必要です。
生活リズムを崩さない
回復期は、急性期までに崩れていた生活リズムを整える時期でもあります。
特に、しっかりとした睡眠がとれないと色々な不調につながりやすくなるので、朝は同じ時間に起きたり、昼寝をしすぎないようにしたり注意が必要です。
精神科医であり、作家やYouTuberとしても情報発信している樺沢 紫苑医師は、自著「頑張らなければ、病気は治る」の中で、睡眠の重要性を次のように述べています。
睡眠には「体力や疲労の回復」の他に、「記憶と感情を整理する」効果があるのです。一晩眠ることで、記憶と感情が整理される。そして、自分のおかれた状況を、客観的に見られるようになります。
精神科医の立場からしても、精神面の安定には十分な睡眠が必要と言えるのでしょう。
体調の波によって調子を崩したとしても、焦らずに、できるだけ生活リズムを崩さないようにしたいです。
家族やパートナーに伝える
回復期は色々なことができるようになるので、家族やパートナーからすると、健康な頃に戻ったようにも見えることもあるようです。
そうなると、急性期には支持的に対応していた家族やパートナーも、多くの相談事をしてきたり、時にはイライラをぶつけてきたりするということも。
でも、散歩や家事・趣味などができるようになったからと言って、当事者としては気分の波が大きいですし、頭も働かないので、家族やパートナーが思っているほど物事がうまくできません。
そういった当事者の事情を知らない家族やパートナーに、もしからだに負担のかかることを強いられれば、うつ病の人は簡単に体調を崩してしまうでしょう。
そこで、自分の体調について、普段から家族やパートナーにいまの状況を伝えておくことをおすすめします。
日によって、体調に波があることを知ってもらうだけでも助けを求めやすくなりますし、体調の悪い日がきても、何も言わずにサポートをしてくれるかもしれません。
当事者と家族やパートナーの認識のギャップが少ないほど、楽に療養できる環境がつくりやすいですよ。
主治医に相談してみる
体調の波が大きい時期は、誰でも不安な気持ちになるものです。
つらい状況を即座に変えられる魔法の薬はありませんが、主治医に相談するだけでも不安な気持ちが軽くなることもあります。
また、うつ病の場合には、薬の影響や症状の悪化によって体調が変動している可能性も考えられます。
自分ひとりで悩みを抱えていると、かえってつらい時間も長くなるので、体調の波について心配なことがあるなら、まずは主治医に相談してみましょう。