認知の歪みの具体例を解説!ストレスになりやすい考え方の癖とはなにか?
認知の歪みとは、物事の事実を正確に捉えれず、自分の気分が落ち込むほうに思い込んでしまう状態です。
初めて聞いた人からすると、意味や内容がイメージしにくい言葉ですよね。
認知の歪みを深く理解すれば、日常生活で落ち込みにくくなったり、落ち込みから早く立ち直れたりします。
逆に、認知の歪みに気づけないと、ストレスがたまりやすかったり、落ち込みから立ち直れなくなったりすることも。
どのような考え方が、認知の歪みの原因になるのでしょうか?
ここでは、認知の歪みを説明するとともに、歪みの原因になる考え方について、具体例をお伝えします。
目次
そもそも認知とは?
「認知」とは、心理学の言葉で、人が物事を捉えることを言います。
人は、物事を見聞きした時に、自分なりの捉え方をします。
例えば、テストで80点を取ったとしましょう。
この時、ある人は「80点も取れた!良くやれた!!」と思う人もいれば、「20点も落としてしまった。満点がとれず残念だ…」と思う人もいます。
このように、人は、同じ物事であってもそれぞれ認知(物事の捉え方)が違うのです。
認知の歪みとは?
認知とは、物事を捉えることとわかりました。
ここで重要になるのが、人は、「いつも物事の事実を正確に認知できているわけではない」ということです。
人は、物事の事実を歪め、自分の気分が落ち込むほうに思い込んでしまうことがあるのです。
それが、「認知の歪み」を起こした状態です。
「歪み」と聞いて、病的なイメージを持たれたかもしれませんが、認知の歪みは、日常的に誰もが起こす可能性があります。
以下に、認知の歪みを起こした状態について、具体例をあげます。
例①:一日中、テレビを見て過ごしてしまい、私はダメな人間だ。 |
解説:この場合、「テレビを見て一日過ごしただけ」です。それと人間的に優れているかは、別の問題です。 |
例②:同僚のAさんにあいさつしたけれど、返事がなかった。Aさんは、私のことを嫌っているんだ。 |
解説:この場合、「Aさんがあいさつを返さなかっただけ」です。それだけで、Aさんに嫌われているとは断定できません。 |
例③:大事な書類を自宅に忘れてしまった。書類を忘れるなんて、私は社会人失格だ。 |
解説:この場合、「書類を忘れただけ」です。社会人としての視覚は、書類を持ってくるかどうかだけでは決まりません。 |
このように、人は、日常的に物事の事実を歪め、認知の歪みを起こしているのです。
精神医学や心理学の専門家によっては、認知の歪みを「考え方の癖」と表現する方もいます。
どちらも同じ意味で使われています。
認知の歪みは、落ち込みの原因に
人は、自分を落ち込ませたり傷つけたりするほうに認知の歪みを起こすことがあります。
ひどくなると、抑うつ状態といった精神的な不調に。
先ほどのテストの例では、80点を取ったことに対し、「満点がとれず残念だ」と考える人がいました。
この人が、満点がとれなかったことがきっかけで、「私は出来損ないだ」とか、「何をやってもうまくいかない」といった考えを持ったとしましょう。
となれば、気分が落ち込み、つらい気持ちでいっぱいになるはず。
これが、認知の歪みの問題点です。
気分の落ち込みから立ち直ったり、つらい気持ちを解消したりするには、テストの結果だけで「出来損ない」や「何もうまくいかない」と思ってしまっていることに気づき、「テストが80点だっただけ」という事実に自分の認知を修正する必要があるのです。
なお、認知の歪みを修正し、自分の考えや行動を改める方法を認知行動療法と言います。
認知の歪みは10種類(具体例で解説)
アメリカの精神科医で、認知行動療法のパイオニアであるデビッド・D・バーンズ医師は、認知の歪みを10種類に分類しています。
ここからは、バーンズ医師著「いやな気分よ さようなら コンパクト版」の内容をもとに、認知の歪みについて、具体例をあげながら説明します。
① 全か無か思考
ものごとを白か黒のどちらかで考える思考法。少しでもミスがあれば、完全な失敗と考えてしまう。
例:仕事で必要な書類をなくしてしまった。クビだな…完全に終わりだ。 |
全か無か思考は、物事を0点か100点の極論で考えてしまう認知の歪みです。
例では、ひとつのミスにより、自分のなかで「クビになる」という極論を出しています。
「クビになる」ことが頭をよぎれば、気分がひどく落ち込むもの。
しかしながら、実際は、書類をなくすだけでクビになるとは考えにくいです。
会社は、社員を簡単に解雇できません。
そもそも、上司がどのような反応や判断をくだすかもわかりません。
このように、全か無か思考は、物事を極論で考えた結果、自分の気持ちが落ち込むほうに思考を膨らせてしまうのが特徴です。
② 一般化のしすぎ
たったひとつの良くない出来事があると、世の中すべてこれだ、と考える
例:自分が作成した企画書を上司に提出した。しかし、上司は、「おもしろくない」と言い、私の企画を採用してくれなかった。いつもそう。私は、何をやってもダメなんだ。 |
例では、上司が企画を採用してくれなかったことで、自分の日常生活のすべてが同じようにうまくいっていないと思い込んでいます。
実際に起きたことは、上司が自分の企画を採用しなかったというだけです。
ですから、そのことだけで、「何をやってもダメ」ということにはなりません。
そもそも、上司に自分の考えた企画を提出している時点で、職業人として頑張れているという見方もできますよね。
このように、一般化のしすぎは、ひとつの良くない出来事を、日常生活のすべてに当てはめてしまう認知の歪みです。
③ 心のフィルター
たったひとつの良くない事にこだわって、そればかりくよくよ考え、現実を見る目が暗くなってしまう
例:仕事の件で、クライアントにクレームを言われてしまった。私の何がいけなかったんだろう。気になって、全然仕事に集中できない。 |
例では、クライアントのクレームに意識が集中し、ほかのことに対して頭がまわらない状況になってしまっています。
心のフィルターの厄介なところは、ほかにいくら良いことがあっても、たったひとつの良くないことばかりを考え、時間が経つにつれ落ち込みがひどくなってしまうことです。
このように、ひとつの良くないことがきっかけで、すべてがネガティブなものに思えてしまうのが、心のフィルターという認知の歪みです。
④ マイナス化思考
なぜか良い出来事を無視してしまうので、日々の生活がすべてマイナスのものになってしまう
例:自分で企画・遂行したプロジェクトが成功し、上司に褒められた。でも、私としては、大したことをしたように思えない。きっと、上司の賞賛もうわべだけに違いない。 |
例では、仕事の成功と上司の賞賛という良い出来事を無視してしまっています。
ひとつは、仕事を成功させたこと。
もうひとつは、上司が成功を賞賛したこと。
これが事実です。
このような事実をなぜか「なかったこと」にしてしまうのが、マイナス化思考という認知の歪みです。
⑤ 結論の飛躍
根拠もないのに悲観的な結論をだしてしまう。結論の飛躍には、2種類あります。
① 心の読みすぎ
ある人が、あなたに悪く反応したと早合点してしまう
② 先読みの誤り
事態は確実に悪くなる、と決めつける
例:①心の読みすぎ あいさつしたにも関わらず、同僚のAさんが返事してくれなかった。きっと、Aさんは、自分のことを嫌っているんだ。 |
例:②先読みの誤り もうAさんとは、うまくやっていけないだろう。いままでのように親しく接するのではなく、距離をとろう。 |
例では、あいさつを返されなかったことで、Aさんに嫌われていると思い込んでしまっています。
そして、その出来事がきっかけで、今後もAさんとの関係を維持できないとも考えてしまっています。
実際は、Aさんには、返事をしない・できない別の理由があったかもしれません。
例えば、時間に追われていたとか、体調が悪かったといったように。
また、一度あいさつを交わさなかっただけで、関係が途絶えてしまうとも限りません。
関係がぎこちなくなっても、仕事を一緒におこなうなかで関係が深まるというのは、人間関係ではよくあることです。
このように、相手が悪く反応したと思い込んだり、もっと悪い事態に発展すると考えを膨らませたりするのが、結論の飛躍という認知のゆがみです。
⑥ 拡大解釈と過小評価
自分の失敗を過大に考え、長所を過小評価する。逆に他人の成功を課題に評価し、他人の欠点を見逃す
例:「仕事が丁寧ですね」とクライアントから褒められた。お世辞で言っているんだろうな。同僚のBさんは、私なんかよりもっと仕事ができる。あの人は、すごいな。 |
例では、自分が賞賛されたことを大して評価しないにも関わらず、他人の仕事ぶりを高く評価しています。
前者が、自分の成功に対する過小評価で、後者が他人の成功に対する拡大解釈です。
自分と他人の成功は、同じように扱って良いはずです。
にも関わらず、自分のことを低く見積もり、他人のことを高く評価するのが拡大解釈と過小評価という認知の歪みの特徴です。
⑦ 感情的決めつけ
自分の憂うつな感情は、現実をリアルに反映している、と考える。「こう感じるんだから、それは本当のことだ」
例:今日のノルマをこなせる気がしない。だから、仕事を頑張っても無駄なんだ。 |
例では、自分の気持ちのなさが、現実を反映していると思い込んでしまっています。
実際は、仕事を頑張ってみれば、ノルマをこなせる可能性もありますよね。
自分の気持ちが絶対に真実と思い込んでしまうのが、感情的決めつけという認知の歪みです。
⑧ すべき思考
何かやろうとする時に「~すべき」「~すべきでない」と考える。あたかもそうしないと罰でも受けるかのように感じ、罪の意識をもちやすい。他人にこれを向けると、怒りや葛藤を感じる
例:ひとりだけ定時で帰宅するなんて。みんなが残業しているんだから、あの人も少しは残業していくべきだ。 |
例では、「~すべき」と自分の価値観を他人に押しつけてしまっています。
価値観を押しつけた側からすれば、ひとりだけ定時で帰宅する社員に対して、怒りや葛藤を感じてしまうでしょう。
実際には、自分の仕事で終わってさえいれば、就業規則で決められた時間に帰宅するのは問題のないことです。
このように、ある特定の価値観に縛られ、柔軟な考え方ができなくなってしまうのは、すべき思考という認知の歪みです。
⑨レッテル貼り
ミスを犯した時に、どうミスを犯したかを考える代わりに、自分にレッテルを貼ってしまう。「自分は落伍者だ」
例:仕事でミスしてしまった。私は、能力がないダメな社員だ。 |
例では、ひとつのミスがきっかけで、自分のことをダメな社員と決めつけてしまっています。
しかしながら、ミスは、誰でもするものです。
それに、ひとつの業務でミスしたからといって、仕事の能力がない人材とも言えません。
レッテル貼りは、ミスによって自分に負の評価をつけてしまう認知の歪みです。
⑩ 個人化
何か良くないことが起こった時、自分に責任がないような場合にも、自分のせいにしてしまう
例:仕事でミスした後輩が、上司に叱られていた。担当外の仕事ではあるけれど、私が、あの子をしっかり指導していれば、こんなミスは起こらなかったのに…。 |
例では、後輩がミスした責任を、自分の指導不足に置き換えてしまっています。
この場合、ミスしたのは後輩ですし、担当外の仕事です。
そのため、「私」には、何ひとつ落ち度がありません。
それにも関わらず、自分の責任に関連付けたことで、「私」は、後悔や反省の気持ちを感じてしまっているのです。
このように、直接落ち度がないにも関わらず責任を背負い込んでしまうのは、個人化という認知の歪みです。
まとめ
認知の歪みとは、物事の事実を歪めた形で捉えてしまうことで、落ち込みの原因になる考えです。
認知の歪みは、10種類あります。
今回は、認知の歪みについて、具体例をあげながら説明しました。
この認知の歪みに気づき、落ち込みにくい考え方に修正する方法を「認知行動療法」と言います。
認知行動療法については、以下の記事で、簡単にできる方法を紹介しています。
興味のある方は、参考にしてください。