うつ病のリハビリはどうするの?当事者になった作業療法士が社会復帰に向けておこなったこと
うつ病のリハビリは、どうすれば良いのか?
精神科に通院し社会復帰を目指す方のなかには、うつ病リハビリの方法について悩む人もいるはず。
というのも、うつ病の通院患者に対する支援と言えば、薬物治療が中心だからです。
抗うつ薬には、憂うつ感や意欲の低下といった症状を改善する効果がありますが…
当事者からすれば、うつ状態が改善するだけでは、社会復帰が難しいものです。
以前、僕は、作業療法士としてリハビリ病院で働いていました。
専門は、身体障がい者に対するリハビリです。
自分自身がリハビリの専門家であるとともに、うつ病の当事者になって思ったことは、「うつ病の通院患者はどのように社会復帰を目指せば良いのか?」ということです。
ここでは、うつ病の当事者でもある作業療法士として、自分自身の経験を踏まえながら、通院患者がおこなうべきリハビリについて、持論を書いていきます。
目次
そもそも、リハビリとは?
リハビリとは、正式な名前を「リハビリテーション」と言います。
日本語に訳すと、「社会復帰」です。
例えば、「うつ病のリハビリには散歩がいい」といったように。
テレビやインターネットでは、何かひとつの活動をすることをリハビリと考えられがちですが。
本来、リハビリ(リハビリテーション、社会復帰)とは、患者が働いたり、家事をしたり、趣味をしたりといった自分の思い描く生活を再獲得する一連の過程を指します。
うつ病のリハビリの目標は?
うつ病の人の場合、何を目標に治療するのでしょうか。
まずは、一般的にうつ病の治療目標を見てみましょう。
うつ病の治療や研究などをおこなう「日本うつ病学会」は、医療従事者向けにうつ病の治療指針を作成しています。
その指針には、次のようにうつ病の治療目標が記載されています。
うつ病治療における治療目標は、症状が軽快するこ とに加えて、家庭・学校・職場における「病前の適応状態」へ戻ることである。
(引用:日本うつ病治療学会ガイドライン Ⅱーうつ病(DSMー5)/大うつ病性障害 2016)
医療従事者側からすれば、患者を「病気になる前の状態に戻すこと」が治療の目標になるのでしょう。
病気になる前の状態に戻るのが難しい人もいる
僕は、作業療法士として、身体障がい者のリハビリに携わっていましたし、自分自身もうつ病の患者です。
そのため、「病気になる前の状態に戻りたい」と願う患者の気持ちがよくわかります。
しかしながら、うつ病の人の場合、病気になる前の状態に戻るのが難しい人も少なくありません。
厚生労働省の「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」によれば、うつ病が原因で休職した人で、元の職場に復職した人の再休職率は、復職日から6ヵ月後が19.3%、1年後が28.3%、2年後が37.7%、5年後が47.1%となっています。
うつ病の人の場合、元の職場に復職してもおよそ3割の人は1年以内に、5割は5年以内に再休職しているのが現状です。
このように、元の生活に戻ることで再休職してしまう人が多い現状を踏まえると、「病気になる前の生活を戻る」という治療目標は、必ずしもすべてのうつ病患者に当てはまるものとは言えないでしょう。
うつ病のリハビリの目標は、新しいライフスタイルを作ること
僕は、うつ病のリハビリの目標を「新しいライフスタイルをつくること」と考えています。
というのも、病気になる前の生活というのは、うつ病を発症する原因となった生活です。
例えば、人間関係のストレスが多かったり、仕事の業務負担が大きかったりといったように。
そもそも、うつ病になる前の生活が「自分に合っていなかった」というケースも少なくないはず。
そうだとすれば、うつ病をきっかけに、自分に合ったライフスタイルをつくっていくほうが、健康的に日々を楽しみながら生きやすいでしょう。
新しいライフスタイルを作るために必要なこと
新しいライフスタイルを作るには、どうすれば良いのでしょうか?
ここからは、うつ病の当事者として、僕が社会復帰に向けて取り組んだリハビリの内容について紹介します。
1.休息をとる
まず、もっとも重要なことは休息をとることです。
というのも、うつ病になった時点で心身のエネルギーがなくなっているので、自分で休み過ぎと思えるほど休まなければ、何かをしようとする意欲や気力が湧かないからです。
うつ病の患者さんは、心身ともに疲れきった、いわばエネルギーが枯渇してしまった状態にあります。~(中略)~休むことが「仕事」と割りきり、治療に専念することが大切です。
(引用:坪井 康次(2017).うつ病 患者のための最新医学 高橋書店)
意欲や気力が湧かない時、僕の場合は、午前中を中心にソファでゴロゴロ過ごしていました。
自分の体調の変動を振り返ってみると、たっぷり睡眠がとれたり、休息を多く取り入れたりした日の翌日は、頭の中がスッキリしていて、「動きたい」という気持ちがも湧きやすかったです。
うつ病で療養していると、休むことで同僚や家族に迷惑をかけているように感じられるでしょう。
だからこそ、積極的に休息をとり、行動するための意欲や気力の回復が必要です。
2.休み方を覚える
うつ病になりやすい人は、仕事に一生懸命な一方で休息を軽視しやすい傾向があります。
どんな人でも、家庭や社会のために休まず働いていれば、いつかはからだを壊してしまうもの。
そのため、「休み方を覚える」ことも、うつ病の人のリハビリに不可欠です。
自分に必要となる休息の量や質を知るには、翌日の疲労度を振り返ることがポイントになります。
例えば、全く動けないほど疲労が残るようなら、前日に動きすぎてしまっている可能性が高いです。
また、少しは動けるが疲労を感じるようなら、前日の活動量に対して休憩時間を増やすといったライフスタイルの工夫が必要です。
このように、「翌日にどのくらい疲労が溜まっているか」を基準にすると、いまの自分に適切な休息の量や質を知ることができます。
3.不安な気持ちをコントロールできるようになる
うつ病の人のなかには、症状の影響で、不安な気持ちになりやすい方もいます。
そうなると、ちょっとした不安感からネガティブな考えが膨らみ、全く身動きがとれなくなってしまうことも。
僕の場合も、不安感から寝込んだり、黙り込んだりしてしまうことがよくありました。
不安感が強い人は、主治医から抗不安薬を処方してもらうのもひとつの方法です。
しかしながら、人によっては、薬だけで不安な気持ちをコントロールしにくいケースもあると聞きます。
そのような場合は、不安な気持ちをコントロールする方法として、呼吸法や認知行動療法がおすすめです。
呼吸法や認知行動療法などの精神療法は、医療従事者向けの治療指針でも薬物治療との併用が推奨されています。
・不安に対しては、呼吸法などを含めた対処法を伝え、 症状に関係した破局的認知の緩和をはかる。
・ 必要に応じて、体系化された精神療法を併用する
(引用:日本うつ病治療学会ガイドライン Ⅱーうつ病(DSMー5)/大うつ病性障害 2016)
呼吸法や認知行動療法の良いところは、時間や場所を選ばずにおこなうことができることです。
また、自分の力で不安をコントロールできるようになれば、それ自体が安心感や自信につながるので、日々の生活が暮らしやすく感じられるでしょう。
4.自信をつける
うつ病になると、職場や家庭で色々な失敗を経験します。
例えば、うっかりミスが増えたり、コミュニケーションがうまくとれなくなったり。
まわりの人から指摘や批判を受けて、自信がなくなってしまった、という人もいるでしょう。
自信がなければ、自分が思い描いたライフスタイルを作るためのあらゆるチャレンジができないからです。
そのため、病気をきっかけに失った自信は、社会復帰に向けてもう一度取り戻す必要があります。
自信をつけるには、自分にできる活動をひとつずつ達成することが大切です。
はじめは簡単に思えることから、徐々に難易度をあげて。
そうして、成功体験を積み重ねていければ、社会のなかで課題をこなしたり、人間関係を築いたりすることもできるようになります。
5.体力をつける
うつ病は、脳や心の病気と言われていますが、体力をつけることも必要です。
というのも、うつ状態などで1日の活動量が減っていると、日常生活や仕事をするための筋力や体力も落ちてしまっているからです。
筋力や体力が落ちていると、仮に仕事がデスクワークだとしても、長い時間座っていられないということにもなりかねません。
また、体力が落ちて疲れやすい時は、からだに余裕がないので、不安な気持ちにもなりやすいものです。
散歩や軽いジョギングは、うつ病の時にも、取り組みやすい運動です。
いきなり毎日やろうとしても続きませんから、気が向いた時に、外で軽くからだを動かすことを習慣にしてみましょう。
新しいライフスタイルをつくっていく
すべてのうつ病患者にとって、「病気になる前の生活に戻ること」が正しい選択とは限りません。
病気になる前の生活が、過度なストレスを受けるものであったら、そこに戻れたとしても症状を悪化させたり、うつ病を再発してしまったりするだけでしょう。
であるなら、うつ病になったことをきっかけに、自分のライフスタイルを見直してみるのも大切です。
うつ病になる前の生活が、そもそも自分に合っていなかったとすれば、新しいライフスタイルの構築を自分のリハビリの目標にしてみてはいかがでしょうか。